運用ガイド v0.1
来歴区分表にもとづく認証を運営する団体向けの手引きです。規格は CC BY 4.0 なので、このガイドに従う義務も、当プロジェクトへの届出も許諾も必要ありません。誰でも、いつでも、独自に認証を始められます。
このガイドについて
来歴区分表にもとづく認証を運営する団体(規格でいう「運営団体」)向けの手引きです。
規格は CC BY 4.0 です。このガイドに従う義務はありませんし、当プロジェクトへの届出も許諾も必要ありません。 誰でも、いつでも、独自に認証を始められます。
それでもこのガイドを公開するのは、運営団体ごとに審査のやり方が大きく違うと、同じ「来歴 B-V3」という表示が団体によって別の意味を持ってしまうからです。表示の互換性を保つために必要な最小限の運用を、ここにまとめます。
誰のための文書か
| 文書 | 読む人 |
|---|---|
| 来歴区分表 v0.13 | 全員(規格そのもの) |
| 実装ガイド v0.2 | 投稿サイト・販売サイトなど表示する場所 |
| 運用ガイド v0.1(本書) | 認証を運営する団体 |
1. 運営団体が引き受けること
規格を運用するとは、次の4つを引き受けることです。
| # | 引き受けること | 本書での説明 |
|---|---|---|
| 1 | 作った人の水準(V2〜V4)を審査し、認証する | §3・§4 |
| 2 | 認証の有効性を照会できる状態にする | §5 |
| 3 | 虚偽が判明したとき、認証を取り消し、表示を止める | §6 |
| 4 | 検証員を認定し、その質を保つ | §7 |
このうち 3 を実行できない団体は、規格を運用しているとは言えません。 取消の連鎖が、この規格の唯一の抑止力だからです(§6)。
やらないこと
| やらないこと | 理由 |
|---|---|
| 成果物からのAI検出 | 規格が禁じています。検出ツールの使用・推奨も同様です |
| 作った人への区分(A〜E)の付与 | 区分は作品に付きます。人に付けるとレッテル貼りになります |
| 登録に至らなかった事実の公表 | 規格が禁じています(§6.4) |
| 区分による扱いの差 | 区分Eにも同じ条件で認証を出します |
2. 認証の対象と単位
審査するのは「作品」ではなく「作った人の記録の残し方」です。
作品を1点ずつ審査する方式は取りません。仕事として制作している人は月に数十点を納品するため、費用が成立しないからです。例外は個別作品検証(W)だけで、これは §8 のとおり抑制的に扱います。
認証の主体
| 申請者の形 | 認証の単位 |
|---|---|
| 個人で制作している人 | その人 |
| 工房・スタジオ・制作会社 | 法人または事業所 |
| 共同で制作している集団 | 申告責任者を1名定め、その人に対して認証 |
事業所単位とするか法人単位とするかは、記録の残し方が実際に統一されている範囲で決めてください。部署ごとに運用が違う大規模スタジオを法人単位で認証すると、実態と認証がずれます。
3. 審査の手順
3.1 全体の流れ
- 申請受付
- 形式確認(書類が揃っているか)
- 不足があれば差戻し → 申請受付へ戻る
- 問題なければ検証員の割当(利益相反の確認・§7.3)
- 審査(§3.2〜3.4)
- 認証 → 有効期間1年 → 更新 または 失効
- 不認証 → 異議申立(§6.5) → 再審査
3.2 水準V2の審査(記録あり)
V2は宣言と同意の確認であり、実地の審査は行いません。次の2点を確認します。
- 規定の記録を残すことを、申請者が書面で宣言しているか
- 抜き取りの確認に応じることに同意しているか
V2は自己申告に近い水準です。軽い審査で通す代わりに、抜き取りを実際に行ってください(§4)。抜き取りをしない運営団体のV2は、V1と区別がつきません。
3.3 水準V3の審査(第三者が確認)
V3は記録の残し方の仕組みを確認する審査です。作品の審査ではありません。
確認する項目:
| 項目 | 確認の方法 |
|---|---|
| 記録の決めごと | 内部規程・手順書の提出を受け、内容が規格の要件を満たすか確認 |
| 使っている道具の一覧 | ソフト・バージョン・AI機能の有無の一覧と、変更したときの履歴 |
| 保管の仕組みと期間 | どこに、どれだけの期間、どう保管するかの定めと、実際の保管状況 |
| 生成AI使用時の記録運用 | 区分C〜Eを申告しうる場合、サービス名・モデル名・指示文・日時・出力原本を残す運用があるか |
| 実際の運用状況 | 直近の制作物から数点を抽出し、規程どおりに記録が残っているか照合 |
最後の項目が審査の核心です。規程があっても運用されていなければ意味がありません。抽出する作品は運営団体が選び、申請者に選ばせないでください。
3.4 水準V4の審査(ずっと確認)
V4は、制作環境を継続的に確認できる状態にすることを求めます。V3の要件に加えて:
- 記録が自動的に生成・保管される仕組みがあるか(作業履歴の自動保存、バージョン管理など)
- 運営団体が随時、記録の存在を確認できる手段があるか
- 記録の改ざんを検知できる仕組みがあるか(タイムスタンプ、ハッシュ、C2PA等)
V4は運用負担が大きく、対象は限られます。無理に V4 を勧めないでください。 水準は高いほど良いという設計ではありません。
3.5 審査してはいけないこと
- 作品の質。上手い・下手は認証の対象外です
- AI利用の是非。区分Eの申告があっても、それを理由に不認証としてはいけません
- 申告の「正しさ」そのもの。確認するのは申告と記録の整合であり、真実の探索ではありません
4. 抜き取りの確認
V2以上の認証を出した後、有効期間中に予告なしの抜き取り確認を行ってください。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 対象 | V2以上の認証者から無作為に抽出 |
| 頻度 | 年1回以上、認証者全体の一定割合 |
| 内容 | 直近の作品数点について、申告した区分と記録が整合しているか確認 |
| 拒否された場合 | 認証の取消事由となります(§6.2) |
抜き取りは、この規格が機能するかどうかを決めます。 審査時だけ体裁を整えれば通る制度になれば、認証の意味は消えます。
抽出の割合は運営団体が定めて構いませんが、その割合を公表してください(§9)。
5. 照会できる状態にする
認証には照会番号を付け、その有効性を外部から確認できるようにします。
5.1 照会で返すもの
| 返すもの | 返さないもの |
|---|---|
| 照会番号 | 認証者の氏名・住所・連絡先 |
| 有効・失効・取消の別 | 作品の情報 |
| 水準(V2〜V4) | 審査の内容や指摘事項 |
| 認証日・有効期限 | 申請の履歴 |
認証の不存在は照会できない設計にしてください。 「この番号は存在しません」と「認証を受けていません」を区別できると、不認証の非公表原則(§6.4)が崩れます。
5.2 表示する場所との連携
表示する場所(投稿サイト等)は、認証の失効・取消を受けて表示を止める必要があります(実装ガイド §5.2)。運営団体は、照会の手段を実装ガイドに沿った形で提供してください。 独自形式にすると、表示する場所が団体ごとに実装を分ける羽目になります。
6. 取消・失効・異議申立
6.1 失効(更新しなかった場合)
有効期間を過ぎたら、水準はV1に下がります。認証がなくなるのではなく、自己申告の状態に戻ると扱ってください。失効は不正ではないため、公表しません。
6.2 取消の事由
| 事由 | 説明 |
|---|---|
| 虚偽の申告 | 区分を実際より関与が小さいほうに申告していたことが判明した場合 |
| 記録の偽造 | 審査や抜き取りのために提出された記録が作られたものであった場合 |
| 抜き取りの拒否 | 正当な理由なく抜き取りの確認に応じない場合 |
| 記録運用の実質的な放棄 | 認証時の体制が維持されていないことが判明した場合 |
過大な申告は取消事由ではありません。 区分CをDと申告していても、虚偽とは扱いません(規格が上位申告を推奨しているため)。
6.3 取消の効果 —— 連鎖
取消は、その人の全作品の表示停止につながります。
- 虚偽が判明
- 認証を取消
- 照会結果が「取消」になる
- 表示する場所が、その人の全作品のバッジ表示を停止
この連鎖が、1点の偽装を全損に変えます。運営団体は、取消を照会結果に反映させる義務があります。 内部で取り消して外部に伝えない運用は、規格違反です。
6.4 公表しないこと
- 登録に至らなかった事実
- 審査で指摘した内容
- 取消の理由の詳細
取消の事実そのものは、照会結果として外部から確認できます(それが連鎖の前提です)。しかし理由や経緯を公表することは、当人に対する制裁として機能してしまうため行いません。
6.5 異議申立
不認証または取消に対して、申請者が異議を申し立てる手続きを必ず用意してください。
| 項目 | 最低限の要件 |
|---|---|
| 申立の期限 | 通知から一定期間(30日程度) |
| 再審査を行う人 | 元の審査に関与していない検証員 |
| 結果の通知 | 理由を付して書面で |
| 記録 | 申立と結果を保存 |
異議申立の窓口がない認証制度は、認証を受ける側にとって一方的に不利です。この手続きの有無が、制度の信頼性を分けます。
7. 検証員
7.1 求められる知識
| 領域 | 内容 |
|---|---|
| 規格 | 来歴区分表の全文。とくに区分の境界と証跡要件 |
| 制作実務 | 審査対象の分野における制作工程の理解(絵、写真、文章、音楽、翻訳など) |
| 記録の確認 | ファイル形式、メタデータ、作業履歴、C2PA等の基礎 |
| 手続き | 利益相反の管理、記録の取扱い、異議申立の手順 |
制作実務の理解が不可欠です。 工程を知らない人が記録を見ても、それが自然な制作の痕跡か、後から作られたものかを判断できません。
7.2 認定と更新
- 認定は分野ごととすることを推奨します(絵の検証員が音楽を審査できるとは限りません)
- 年1回の更新とし、規格の改訂内容を反映した継続教育を課してください
- 検証の質に問題があった場合の登録取消の規程を持ってください
7.3 利益相反の管理
次の場合、その検証員を審査から外してください。
- 申請者と雇用・取引・資本の関係がある
- 申請者と競合する事業を営んでいる
- 申請者の作品の発注者・受注者である
- 過去に申請者と係争があった
検証員には年1回、利害関係の申告を求め、記録を保存してください。
7.4 検証員がしてはいけないこと
- 審査で知った未公開の制作データを、第三者に開示すること
- 同じデータをAIの学習に使うこと
- 審査対象者に、自分が提供する有償サービス(コンサル等)を勧めること
8. 個別作品検証(W)の扱い
Wは上位の認証ではありません。 V0〜V4の順番の外にある、例外的な追加手続きです。
8.1 運営団体が守ること
| # | 守ること |
|---|---|
| 1 | Wを「最上位」「プレミアム」等と説明しない |
| 2 | Wの利用率を継続して記録し、公表する |
| 3 | Wを一律に推奨しない。必要な場面(高額受注、コンペ、係争対応)に限って案内する |
| 4 | 水準を持たない人(V1)にもWを提供する。年次認証を続けられない人の入口を閉じない |
8.2 利用率が上がったときの対応
Wの利用率が想定を超えて上がった場合、それは人ごとの水準(V)が市場に信用されていないしるしです。
そのときに取るべき対応は、Wの条件を厳しくすることでも、Wを増やすことでもありません。規格の見直しの場に、Vの設計そのものの再検討を持ち込んでください。
Wは単価が高く、運営団体にとっては短期的に収益になります。この誘因が制度の持続性と衝突することを自覚してください。 Wが常態化すると、作品1点ごとに費用がかかる状態が固定され、費用を払えない制作者が排除されます。
9. 公表すること
運営団体は、次を公表してください。
| 公表するもの | 理由 |
|---|---|
| 審査の手順と基準 | 認証の中身が外から見えないと、信頼されません |
| 検証員の認定要件 | 誰が審査しているかは、認証の重みを決めます |
| 抜き取りの割合 | 抜き取りの実施が制度の実効性を担保します |
| Wの利用率 | §8.2 のとおり |
| 異議申立の手続き | 申請者の権利です |
| 費用 | 事前に分かることが前提です |
費用の額は各運営団体が自由に決めてください。 規格は金額を定めません。
10. 中立性のために
| 守ること | 内容 |
|---|---|
| 審査と営業の分離 | 認証の可否を、営業や収益の担当者が覆せない仕組みにしてください |
| 提携先の優遇禁止 | 協賛・提携している相手に、審査上の便宜を与えないでください |
| 区分の非差別 | 区分A〜Eのいずれも優遇・冷遇しないでください |
| 教材と審査の分離 | 認証の対策講座を販売する場合、審査基準の策定と講座の制作を分離してください |
| 記録の非利用 | 審査で預かった記録を、AI学習を含むいかなる目的にも流用しないでください |
最後から2番目は見落とされがちですが、審査基準を作る側が対策講座を売ると、「答えを知っている側が対策を売る」構造になります。 中立性を掲げる制度では致命的です。
11. 他の運営団体との関係
規格は CC BY 4.0 であり、運営団体は複数あってかまいません。
- 他の運営団体を「非公式」「無許可」と呼ばないでください。許可の概念がありません
- 自団体を「唯一の」「公式の」認証機関と称しないでください
- 他団体の認証を受けた人に、自団体での再認証を要求しないでください
異なる運営団体の認証が同じ 来歴 B-V3 として表示される以上、表示の互換性を保つことは各団体の責任です。本ガイドの §3〜§6 は、そのための最小限の共通運用です。
12. 改訂
規格は年1回の改訂を前提としています。運営団体は、改訂時に次を行ってください。
- 既存の認証を、新しい版に基づいて再審査するかどうかの方針を定め、公表する
- 検証員に改訂内容を周知する
- 区分の定義が変わった場合、既存の作品表示をどう扱うかを定める
遡及して既存の認証を無効にすることは、原則として避けてください。 制作者に責任のない変更で表示が止まると、制度への信頼が損なわれます。
お問い合わせ
認証を始めるにあたって当プロジェクトへの連絡は不要ですが、ご相談があればお受けします。認証基盤システム(申請受付・審査・照会APIを含む)の提供もご相談に応じます。
改訂履歴
| 版 | 日付 | 内容 |
|---|---|---|
| v0.1 | 2026-08-03 | 初版(規格 v0.13 対応) |