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C2PA・Originator Profile・
EU AI法との関係

「来歴」の技術はすでにいくつもあります。来歴区分表はそれらと競合しません。担っている層が違うからです。ここでは違いと、国内でいま何が動いているかを整理します。

2026-08-04 時点の公開情報にもとづく CC BY 4.0

三つの層

しくみ証明の対象対象
Originator Profile発信者(組織)の実在性・属性
= 誰が出したか
Web上の静的テキスト、広告
C2PA / Content Credentialsファイルの来歴(機材・編集履歴)
= どう作られたか
画像・動画・音声などのファイル
来歴区分表作品の申告区分と、作った人の記録体制
= 本人が何を申告し、それが記録と整合するか
制作物一般(アナログを含む)

層が違うので、置き換え合う関係にはなりません。C2PAは来歴区分表にとって、有力な記録(証跡)の構成要素です。規格でも「C2PAは有力な記録として使えます」と書いています。ただし必須にはしていません。理由は後述します。

C2PA(Content Credentials)とは

コンテンツの制作・編集の履歴をファイルに埋め込み、暗号署名で改ざんを検知できるようにする国際的な技術仕様です。仕様はバージョン2.4(2026年4月)まで進んでおり、ISO 22144として国際規格化も進行中です(国内審議団体はJIIMA)。

日本のカメラメーカーの取り組みは世界最先端で、ソニーはC2PAの運営委員(Steering Committee)を務め、静止画・動画の真正性カメラソリューションを提供しています。キヤノンも報道機関向けのシステムを発表しました。

それでも「必須」にできない3つの理由

1. 対応機材が、届く人に限られている

ソニー・キヤノンの真正性ソリューションは報道機関・報道カメラマン向けの有償ライセンス制で、一般のクリエイターは購入できません。これを必須にすると、費用を負担できない人が締め出されます。この規格がWの使いすぎを禁じているのと同じ理由です。

2. 手描き・アナログの制作を通らない

C2PAは対応した機材やソフトを通った工程を記録します。紙に描く、フィルムで撮る、複数の道具をまたぐ——といった作り方では、そもそも記録が生まれません。C2PAが無いことをネガティブな信号として扱うと、それらの制作者が不利になります。

3. 署名は「工程が記録された」ことを示すが、「中身が正しい」ことは示さない

これがいちばん大事な点です。C2PAのトラストモデルが測っているのは署名者の信頼性であって、データの正確性や真実性ではありません。正規の署名が付いた、中身の誤ったコンテンツはありえます。

2025年9月に起きたこと。あるカメラメーカーの真正性サービスで、多重露出モードを使うとAI生成画像に有効なC2PA署名を付けられることが実証されました。メーカーはサービスを停止し、それまでに発行した証明書をすべて失効させています。問題はメーカー単独では解決できませんでした。主要な検証ツールが失効チェックをデフォルトで行わないため、失効済みの署名でも検証を通過してしまうからです。

2026年4月には、大学・研究機関の研究者による独立したセキュリティ分析が公表され、タイムスタンプの改ざん、失効チェックの不備、検証器ごとの判定の不整合などが指摘されました。結論は「現在の仕様は主張するセキュリティ目標を達成できていない」「ジャーナリズムや法的証拠のような重い用途への依拠は時期尚早」というものです。

これはC2PAを否定する話ではありません。

機械が付ける署名は、それを付ける工程が信頼できて初めて意味を持ちます。だから工程の側を見る層が必要になる——というのが、来歴区分表が置かれている位置です。C2PAが成熟するほど、来歴区分表はその記録を証跡として使いやすくなります。

Originator Profile との関係

Originator Profile(OP)は、発信者の実在性・属性をエンドユーザーが検証できるようにする国産の技術です。OP技術研究組合には報道・広告・出版の中核企業が参加しており、2026年には複数のメディアと自治体で実証が行われました。

OPは主にWeb上の静的テキストと広告を対象としており、写真・動画を扱う技術とは相互補完の関係にあるとされています。来歴区分表はさらに手前、個々の制作者の申告と記録を扱う層なので、三者は重なりません。

EU AI法と、日本の状況

日本EU
根拠AI新法(2025年)+第13条にもとづく指針AI Act 第50条
適用指針は2025年12月決定2026年8月2日から
法的性質努力ベース。義務ではない法的義務
機械可読マーキング「開発に努め、必要に応じて実装する」プロバイダに義務
制裁罰則なし制裁金あり

ここは正確に理解しておく必要があります。

  • 日本にAI生成物の表示義務はありません。AI新法は罰則のない理念法で、条文に表示・ラベリングの義務規定はありません
  • EU AI法第50条が義務を課すのはAIシステムのプロバイダとデプロイヤであって、手描き作品を投稿する個人クリエイターではありません
つまり、この規格が使われる理由は法規制ではありません。判定ツールの誤判定で実際に人が仕事を失っていること、そして発注や取引の現場で「何をどこまで使ったか」を共通の言葉で言えないこと——駆動しているのはこの2つです。法対応を売り文句にしていないのは、そのためです。

では、日本のクリエイターは何をすればいいのか

2026年8月2日の適用開始にあわせて「AI生成物の表示が義務化された」という記事が増えましたが、そのほとんどは、日本で作品を作っている個人に何が求められるのかまで書いていません。ここを整理します。

結論から言うと、多くの方には直接の義務がかかりません。義務の名宛人が違うからです。

あなたの立場第50条の義務実際にすること
日本国内向けに作品を発表しているかからない法的な義務としては何もありません。書くとすれば、それは取引先や読者に対する説明のためです
生成AIツールを使って作品を作ったかからない機械可読なマーキングを埋め込む義務は、そのAIツールを提供している側にあります
EU域内向けに販売・配信している場合によるディープフェイクにあたる合成物を公開する場合など、限られた場面で開示が求められます
AIシステムを組み込んだサービスを提供しているかかりうる提供者・利用者としての義務を個別に確認してください

誤解が多いところなので、はっきり書きます。生成AIで絵や文章を作って日本のサイトに投稿することは、EU AI法が表示を義務づけている行為ではありません。第50条が求めているのは、主にAIシステムを提供する側が出力に機械可読な印を付けることと、ディープフェイクを公開する側がそれを開示することです。

また、ソフトウェアのソースコードは、第50条のマーキング義務の対象から明示的に外されています。AIに書かせたコードに印を付ける義務はありません。

それでも書いておく意味はあります

義務でなくても、取引先から聞かれる場面は増えます。米国では2026年3月、政府調達の契約条項として「契約履行に使用したすべてのAIシステムの開示」を求める案が出ています。下請けへの引き継ぎも要求する内容です。国内でも出版業界団体が、生成AI使用の指針を作り契約書に明記する方針を示しています。

先に言えるようにしておくことと、法律で言わされることは別です。この規格が用意しているのは前者です。

法令の解釈にあたる部分を含みます。実際の適用は事業の形態によって変わるため、事業として判断が必要な場合は専門家にご確認ください。一次情報は EU AI Act 本文(EUR-Lex) です。2026年8月5日時点の整理です。

どうつなぐか

実務としては、次のように併用できます。

  • C2PAが使える工程なら、その記録を証跡として使う。区分C・D・Eの「生成AIの使用記録」に、C2PAマニフェストがあればそれを充てられます
  • C2PAが無いことを不利に扱わない。手描き・アナログ・非対応ソフトの制作者を締め出さないためです
  • 表示は来歴の形で行う。区分と水準を対にして表示します。C2PAの有無は表示の条件ではありません

なお、規格の付録として区分A〜Eと機械可読な来歴情報の対応表を持つべきかは検討中です。ご意見をお寄せください。

技術面のご意見・ご指摘 contact@jumpstack.co.jp

C2PA・OP・その他の来歴技術との接続について、実装の観点からのご指摘を歓迎します。

来歴区分表 v0.17 / 来歴標準プロジェクト (CC BY 4.0) 運営:JumpStack株式会社