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手描きなのに
AI生成だと疑われたとき

判定ツールの誤判定で、値引きを迫られた。原稿がボツになった。受け取りを拒まれた。実際に起きていることです。このページは「疑いを晴らす方法」ではなく、疑われる前と後に、記録で何ができるかを整理したものです。

来歴区分表 v0.17 にもとづく CC BY 4.0

「使っていない証明」が難しい理由

「AIを使っていないことを証明してください」と言われたとき、まともに応じようとすると行き止まりに入ります。理由は3つあります。

1. 判定ツールは外れる

画像や文章からAI生成かどうかを当てるツールは数多くありますが、どれも精度に限界があります。問題は精度そのものより、外れたときの損害が判定された側にだけ降りかかることです。ツールを使った側は「ツールがそう出た」で済み、疑われた側は反証を求められます。

2. 制作過程の動画すら作れるようになった

これまで「手描きの証拠」として最も強いとされてきたのが、レイヤー分けデータと作業のタイムラプスです。ところが、完成した絵からもっともらしい制作過程の動画を生成する研究がすでに発表されています。タイムラプスがあることは、もはや決定的な証拠にはなりません。

3. 「使っていない」は悪魔の証明

「使った」ことは記録で示せますが、「使っていない」ことは原理的に示しきれません。どれだけ記録を出しても「別のところで使ったのでは」と言い続けることができてしまいます。

だから来歴区分表は、作品を見てAIかどうかを見分けることを一切しませんし、勧めもしません。「AI不使用」という表示も使いません。証明できないことを掲げると、後で覆されたときにいちばん損をするのは掲げた本人だからです。

証明ではなく、整合を見る

この規格が見るのは、ひとつだけです。

作った人の申告と、制作の記録が食い違っていないか。

作品そのものを鑑定するのではありません。「Bと申告した人が、Bと言える記録を持っているか」を見ます。ここには判定ツールも、AI検出も出てきません。

もうひとつ大事なのが、確かめるのは作品ではなく人だという点です。作品を1点ずつ第三者に見てもらう方式では、仕事として月に何十点も納める人には費用が合いません。そこで、その人が制作の記録を残す仕組みを持っているかを確かめ(水準 V0〜V4)、その裏づけのもとで作品ごとの区分(A〜E)を本人が申告します。食品のHACCPやISO 9001と同じ考え方です。

そして、嘘の申告が分かった場合に取り消されるのはその人の水準です。その人のすべての作品の表示がいっぺんに止まります。1点ごまかすと全部失う——だから申告が信用に足る、という設計です。

いま残しておける記録

認証のしくみが動いていなくても、記録を残すこと自体は今日から始められます。規格が求めている記録は、多くの人がすでに作っているものです。

作品ごとに残すもの(区分A・Bの場合)

  • ラフ、下書き、レイヤーを分けたままのデータ
  • 書き直しの履歴、ソフトの作業履歴・ヒストリー
  • 写真ならRAWデータとExif
  • できれば、第三者による時刻の記録(タイムスタンプ)

区分C・Dなら、これに生成AIの使用記録(使ったサービス名・モデル名、指示文、作った日時、AIが出したもとのデータ)と、AIが作った部分が作品のどこに当たるかの対応を加えます。区分Eなら生成AIの使用記録が中心になります。

仕組みとして決めておくこと

水準V2以上を目指すなら、作品ごとの記録に加えて次を用意します。個人でも、A4一枚のメモで足ります。

  • 制作の記録をどう残すかを書いたルール
  • 使っているソフトとその設定の一覧、変えたときの履歴
  • 作品ごとの記録をどこに、どのくらいの期間しまっておくか
  • 生成AIを使うときに使用記録を残す運用
C2PA(Content Credentials)などの機械が読める来歴情報は、有力な記録として使えます。ただし必須ではありません。対応していないソフト、手描きやアナログの制作、複数の道具をまたぐ作り方を締め出さないためです。対応機材を買えることを条件にすると、費用を負担できない人が締め出されます。C2PAとの関係はこちら

疑われたときの動き方

全部を出す必要はありません

記録には、まだ公開していない制作中のデータが含まれます。何をどこまで出すかは、求められるままにではなく、自分の運用として先に決めておくのが安全です。この規格でも、検証員と運営団体は確認をできるだけ作った人の環境で行い、送ってもらう量を最小限にすると定めています。預かった記録をAIの学習に使わないことも定めています。

順番

  1. まず自分の申告を確認する。その作品は本当にAだったか。誤字チェックにAI機能を使っていればBです。ここで申告がずれていたなら、直すのが先です
  2. 持っている記録を並べる。レイヤーデータ、作業履歴、RAW、日時。相手にすべて渡すのではなく、まず自分で確認します
  3. 提示の範囲を決めて伝える。「レイヤー分けデータと作業履歴を、画面共有でお見せできます」のように、渡す形と範囲を自分から示します
  4. それでも収まらないときの選択肢を知っておく。下記のとおりです

第三者に確かめてもらう選択肢

認定を受けた検証員に記録の残し方を確かめてもらうのが水準V3です。作品1点ではなく、その人の仕組みを見ます。一度受ければ、以後の作品すべての申告の裏づけになります(1年ごとの更新が必要です)。

特定の1作品だけを確かめてもらう手続きとして W もあります。疑いをかけられた人が自分から申し込む場面は、規格が想定している用途のひとつです。

Wは「いちばん上の認証」ではありません。V0〜V4の順番の外にある、特別な場面のための追加の手続きです。規格では、表示する場所と発注する人がWが付いていないことを理由に作った人を不利に扱うことを禁じています。Wが当たり前になると、作品1点ごとに費用がかかる状態が固定され、費用を払えない人が仕事から締め出されるからです。

なお、検証や認証のしくみはまだ動いていません。現時点でできるのは、記録を残しておくことと、申告を正確に書くことです。この2つだけでも、疑われたときの立ち位置はかなり変わります。

表示する場所・発注する側へ

誤判定の損害は、判定した側ではなく、された側にだけ降ります。この非対称を放置すると、疑われるリスクを避けるために発信をやめる人が出ます。規格では、表示する場所と発注する人に次を求めています。

  • 判定ツールの結果だけを根拠に、作った人を不利に扱わない
  • 区分と水準を必ず対で表示する。水準を書かずに区分だけを出さない
  • 区分Eを差別する表示や、検索から外すことをしない
  • Wの有無で扱いを変えない。募集要項で「W必須」を一律に求めない

投稿サイト・販売サイト側の具体的な組み込み方は実装ガイドにまとめています。

実際に困った事例を教えてください contact@jumpstack.co.jp

規格は意見募集中です。どんな場面で、どんな記録を求められ、何が足りなかったか。実務の報告がいちばん役に立ちます。

来歴区分表 v0.17 / 来歴標準プロジェクト (CC BY 4.0) 運営:JumpStack株式会社